甲状腺はのどぼとけのすぐ下にあり,蝶が羽を広げたような形をした小さな臓器です。普通は外からは見えませんが,病気で腫れたり硬くなったりすると外からも分かるようになります。体の新陳代謝を制御している,生命維持になくてはならない,甲状腺ホルモンと呼ばれる物質がここで造られています。脳の一部である視床下部や下垂体の働き,また負のフィードバックという制御システムによってその産生は厳密に調節され必要な分だけ生体に供給されています。
 

甲状腺ホルモンが何らかの理由で過剰になってしまった状態が甲状腺機能亢進症です。落ち着きがなくイライラする,動悸,汗をかきやすい,手が震える,食欲はあるにもかかわらず体重が減るなどの症状が出現します。
代表的な病気としてバセドウ病があり,この病気では甲状腺とは別に眼の裏の組織にも炎症を起こして眼球が突出することがあります。女性の200人に1人がこの病気にかかるといわれており,特に20~30歳代の若い方に多い病気です。飲み薬,手術,放射線ヨードの内服という三つの治療方法があり、病状や患者さんの希望を考慮してこれらを選択します。きちんと治療を受けさえすれば健康な人と全く変わりのない生活を送ることができる病気であり,妊娠・出産することも十分可能です。
その他の原因として,亜急性甲状腺炎・無痛性甲状腺炎といった病気により一時的な機能亢進になることがあります。

甲状腺ホルモンが何らかの理由で足りなくなった状態が甲状腺機能低下症です。無気力,物忘れ,声がかれる,髪や眉がうすくなる,皮膚の乾燥,むくみ,便秘,体重が増えるなどの症状が現れます。
代表的な病気として橋本病があります。慢性的に甲状腺に炎症が起こる病気で慢性甲状腺炎とも呼ばれています。40歳代以降の女性では13人に1人がこの病気であるといった報告があります。治療は不足した甲状腺ホルモンを飲み薬で補充するという単純なものです。甲状腺の炎症が自然に回復することは通常ありませんので一生涯薬を飲み続けることにはなりますが,きちんと服薬を続ける限りにおいては日常生活に何の支障もありません。
その他の原因として,甲状腺手術・放射線ヨード治療後によるものや,亜急性甲状腺炎・無痛性甲状腺炎といった病気により一時的な機能低下になることがあります。

甲状腺は腫瘍ができやすい臓器ですが,そのほとんどは臨床的に問題にならないものです。甲状腺の悪性腫瘍は性質がおとなしいものが多く手術により治ってしまう可能性が高いです。
 

 TSH・FT3・FT4: これらの数値を評価して甲状腺ホルモンが過剰なのか不足しているか,あるいは正常なのかを判断します。
 甲状腺自己抗体
 抗サイログロブリン抗体・抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体: 橋本病(慢性甲状腺炎)で特異的に上昇します。
 TSH受容体抗体: バセドウ病で特異的に上昇します。
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甲状腺は体の表面近くにあるので超音波検査が非常に有用な臓器であり,甲状腺の大きさ・炎症・血流や腫瘍の存在・性質などを評価して病気の診断に利用します。

甲状腺の腫瘍が良性か悪性かを判断するために,超音波を使って甲状腺に細い針を刺して細胞を直接吸いとってくる検査です。痛みは腕からの採血とほとんど同じ程度ですので御安心して検査を受けて下さい。